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外国為替市場における高頻度での価格形成の実態:注文データの分析

吉田裕司 教授

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 今回の研究報告では、外国為替市場における注文データを活用した研究 プロジェクト(共同研究者:須齋正幸氏・長崎大学)における一連の研究成果を解説した。 具体的な研究内容に触れる前に、専門研究者以外にも理解できるように、(1)現在の外国 為替電子ブローカー市場、(2)アルゴリズム・トレーディング、(3)外国為替市場のマイ クロストラクチャー分析、(4)日本銀行の外為市場介入、について詳しい解説を行った。 ※本研究プロジェクトは、科研費基盤研究(C) 23530308「金融危機による貿易構造の変化 と株式市場の国際的な連動性の実証分析」の一部である。
 これまでの先行研究では、非常に高頻度なティックデータ(取引が約定された時の価格) を用いた分析が行われてきた。例えば、円ドル直物市場においては、一日(2010年9月15日) でおよそ7万回もの約定がある。従来の日次データや、一日の四本足データを用いた分析か らすると、情報量の大きな飛躍であり、行動ファイナンスの実証分析にも大いに役立って いる。しかし、本研究で用いるEBS(世界最大の電子ブローカー)の特別なデータによると、 その日に世界中の金融機関が実際に行った注文回数は62万回もあったことが明らかになる。 約定の時にだけ現れるティックデータでなく、それに至る攻防戦でもある発注・キャンセル のデータを分析することで、金融機関の行動ファイナンスの全貌を初めて明らかにすること ができる。本研究プロジェクトの最大の貢献は、まさにその分析を世界で初めて行うことに ある。
 第一の研究「Life-Time of Limit Orders in the EBS Foreign Exchange Spot Market」で は、注文のライフタイム (発注から、約定あるいはキャンセルによる終了までの滞在期間) に着目した。分析の結果、 (i)注文金額が大きいほど、(ii)市場価格から乖離した注文価格 ほど、(iii)市場の厚み(滞在している注文数の大きさ)が小さいほど、(iv)先行する注文の スピードがゆっくりであるほど、注文のライフタイムが長くなることが示された。その一方、 アルゴリズム・トレーディングの可能性の高い「2秒以内にキャンセルされる」注文に限定 した分析では、上記の関係が弱まることも示された。すなわち、注文データの分析からは、 人間の判断による「通常の取引」と、コンピューターによる「プログラムの取引」では、行 動ファイナンスが異なることが示されたことになる。
 第二の研究「Central Bank Interventions and Limit Order Behavior in the Foreign Exchange Market」では、(i)(財務省の指示による)日銀の円ドル市場介入を分単位で特定 することに成功し、(ii)その分単位で特定した介入がある時には、注文のライフタイムが 極端に短くなることが示された。
 第三の研究「Algorithm Trading in Asian Currency FX Markets」では、クロスレートで ある円/豪ドルの分析を行った。円/豪ドルに関しては、(i)低金利の円を借りて高金利の 豪ドルに投資するキャリー・トレード、(ii)「円/米ドル」と「豪ドル/米ドル」間の三角 裁定の役割としての取引、に加えて第一の研究で明らかになった(iii)アルゴリズム・トレ ーディングの役割について着目した分析を行った。この研究に関しては、2014年にElsevier 出版社から刊行される、Handbook of Asian Finance, (David Lee and Greg N. Gregoriou eds.)の第10章として掲載される。

(吉田裕司)

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