陳韻如 准教授
本報告の目的は、近年成長分野のバイオ産業の育成に力を注いでいる 台湾に注目し、台湾バイオ産業の現状を把握したうえで、台湾バイオクラスターの成 長要因と、バイオクラスターの展開に当たって直面した課題を明らかにすることにある。
バイオ産業は近年新たな成長分野として各国に注目されつつある。先進国だけでなく、 2000年以降バイオ産業を積極的に育成するアジア諸国/地域も急成長を見せている。 かつて、台湾はクラスターの隆盛により半導体や液晶産業のグローバル競争力を築き 上げた。新興産業のバイオ産業においては、台湾はどのようなクラスター戦略でこれ を発展させているのかということが本論文の問題意識となる。
現在、台湾では、バイオ産業を主軸として形成されているバイオクラスターは農業バ イオの2つに限られる。それに、既存の科学園区の3つと、併設型クラスターの1つと合 わせて全部で6つのバイオクラスターが稼働している。バイオクラスターの設立年数や 独立性、入居社数、従業員数等から見ても、台湾バイオクラスターはまだまだ形成期 から促進期に向かっている途上にある。
近年の台湾バイオクラスターの発展を見ると、台湾はベンチャー企業の創業による新 産業の形成や、伝統産業の技術アップグレードによる新産業への構造転換などのモデ ルを構築している。比較的成長の軌道に乗りつつある「南港生物技術園区」と「南部 科学園区高雄園区」を事例にその成長メカニズムについて考察を行った結果、台湾政 府はバイオクラスターの推進に当たって新竹科学園区の推進策を複製する、または成 功した科学園区の経営資源を組込む傾向があるといったことも明らかになった。
事例からの示唆は、台湾バイオクラスターの成長には、(1)支援組織の連携による 知識ネットワークの組成、(2)国主導の資金供給制度とインセンティブ制度の内包 の2つのメカニズムが牽引したことが挙げられる。前者は、バイオクラスターではイ ンキュベーションセンターが新事業創出促進システムの中核組織として位置づけられ、 それらの組織を介し、多くのベンチャー企業が創出されただけでなく、企業家、大学、 研究機関の知識連携ネットワークも組成されている。後者に関しては、バイオ関係の 研究開発や事業化は主に国によって資金が供給されるが、国の資金の獲得をめぐり、 支援組織間は競争関係にあり、資金の獲得実績も支援スタッフの人事考課に組込まれ ている。
ただし、台湾バイオクラスターが新竹と同様な展開力を持ちえるかは疑問である。今 後台湾バイオクラスターを発展させていくための主な課題は次の4つにまとめられる。 第1に、クラスター内の集積・分業ネットワークの組成を促す必要がある。第2に、民 間の資金源と投資先のさらなる開拓である。第3に、人的資源開発である。第4に、台 湾バイオクラスターでは強力なイニシアチブを発揮している核機関の確立である。
(陳韻如)