大村啓喬 講師
本報告では、豊富に存在する天然資源が保有国にもたらす負の影響(内戦と 低経済成長)について、内戦と経済成長の間にある相互因果関係を考慮した実証分析を報告 した。
国際社会にとって、内戦の不在(平和)と経済成長の達成(繁栄)は取り組むべき重要な課 題の一つである。豊富に存在する天然資源は、直観的には保有国の平和と繁栄の達成に貢献 するように思われる。しかし、これまでの主要な先行研究では、豊富な天然資源の存在は潜 在的な反乱軍の欲望を刺激し、反乱活動を可能にする財政的な基盤となることが指摘されて おり、また、豊富な天然資源に依存した国家は、産業構造の弱体化や非効率な経済政策の実 施などによって、低経済成長に陥ることが示されてきた。
既存の研究では、天然資源がもたらす内戦と低経済成長の相互作用を考慮せずに、両変数を 独立したものとして考えてきた。しかし、内戦は、その国の基盤を破壊することで、国土の 荒廃や投資の減少をもたらし、経済成長の障害となりうる。一方で経済成長の鈍化は、国家 の財政状況の悪化や行政サービスの低下をもたらし、人々の経済・社会環境を悪化させるこ とで、内戦の蓋然性を高める。つまり、内戦と経済成長は、一方向的に天然資源の影響を受 けるだけでなく、相互に強く影響しあうことが想定されるのである。
変数間の内生性を考慮せずに計量分析を行った場合、バイアスを含んだ推定値になってしま う。そこで本研究は、天然資源が生み出すとされている二つの負の帰結(内戦の発生と経済 成長の鈍化)が内生的な関係にあることに注目し、それに対処する方法を用いながら分析を 展開した。内戦と経済成長の間にある内生性バイアス除去の方法として、筆者は操作変数法 を採用した。計量分析の結果、(1)豊富な天然資源の存在は内戦の発生には直接的に作用 する一方で、経済成長については内戦の発生を通した間接的な負の効果があること、(2) 資源輸出への依存は、経済成長の鈍化を直接引き起こすのに対して、内戦の発生は経済成長 の鈍化による間接的な影響を通じてもたらされることが明らかになった。
(大村啓喬)