佐野洋史 准教授
医師不足の地域や医療機関へ医師の就業を促すためには、医師がどのような勤務条件 を重視して勤務先を選ぶのかを把握し、医師の選好に基づいた就業環境の整備を行うことが重要であ る。そこで、分析対象者が実際にとった市場行動に基づき財(物・サービス)の属性の価値を推計す る顕示選好法と、分析対象者に対して仮想的質問を行うことにより財の属性の価値を推計する表明選 好法を用いて、医療機関の属性(勤務条件)に対する病院勤務医の選好を定量的に把握する以下の研 究を行った。
1.「医師の非金銭的インセンティブ関する実証研究」
公立病院の勤務医のパネルデータをヘドニック賃金アプローチ(顕示選好法)により分析し、勤務医 が就業場所の選択において賃金以外のどのような勤務条件を重視するのかを把握した。その結果、交 通の不便さ、同僚医師の支援が得られない1人勤務体制、そして業務負担が大きいことが、勤務医が へき地の病院を敬遠する要因であることがわかった。
2.「医師の就業場所の選択要因に関する研究」
病院勤務医のアンケートデータをコンジョイント分析(表明選好法)により分析し、病院勤務医が就 業場所の選択の際、どのような勤務条件を重視するのかを定量的に把握した。その結果、医療機関の 立地場所がへき地でないこと、診療について相談できる医師がいること、学会や研修会への出席機会 が保障されることが、業務負担の軽減等よりも勤務医に重視されることがわかった。
3.「研修医の就業場所の選択要因に関する分析」
研修医のアンケートデータをコンジョイント分析により分析し、研修医が研修修了後の就業場所の選 択においてどのような勤務条件を重視するのかを定量的に把握した。その結果、診療について指導し てくれる医師がいること、医療機関の立地場所がへき地でないことが、研修医に特に重視されること がわかった。
これらの研究結果を総括すると、顕示選好法、表明選好法による分析ともに、病院勤務医が勤務先を 選ぶ際に重視する勤務条件は、診療を支援(指導)してくれる医師の存在であることを示した。従っ て、医師不足の地域や医療機関へ医師の就業を促すためには、地域の拠点病院等に医師を集約させる ための医療機関の再編や遠隔医療システムの導入等、医師の診療を支援する体制を整備することが有 効であると考えられる。ただし、以上の研究を通していくつかの課題も残されており、今後も地域や 診療科の医師不足の解消に資する研究を実施していきたい。