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国際課税における租税競争と協調

松田有加 准教授

講演会の様子

 本報告では、国際課税を歴史的に見て3つの局面に分け、第2の局面と 第3局面についての考察を通じて、OECDおよびEUといった国際レベルと国レベルとの課税 権に関する重層的ガバナンスについて検討した。課税権はこれまで各国の主権として尊 重されてきた。しかしながら、現在では国レベルから国際レベルへ、国の課税権の一部 を委ねるような動きが見られる。すなわち、国レベルと国際レベルとにおける課税権の 重層的ガバナンスが構築されつつある。これは国家の根幹的権利とかかわる極めて重要 な問題である。
 第2の局面である1980年代以降における各国税制の接近については、各国法人税率など により確認できる。1980年代以降各国法人税率の引き下げが進行し、租税競争が起きて いる。こうした状況に対して、1990年代ごろから第3の局面である税制の協調が進められ てきた。具体的に言えば、OECDおよびEUにおける有害な租税競争への取り組みや、EUにお ける法人税の協調である。両機関は、有害な租税競争については経済活動を歪曲させるも ので認められないとした。そこで、有害な税制の判断基準を明示し、各国税制を調査し、 該当する税制があればこれをリストとして公表することにより、各国に税制改正等を迫る などした。従来OECDはモデル租税条約を設定し、租税条約締結などにあたってこれを参照 することで、各国間における制度の相違を小さく止め、国際的な経済活動を妨げる税制上 の要因を取り除いてきた。これまでOECDは各国課税権に間接的に影響してきたにすぎない。 しかし、有害な租税競争への取り組みは各国に税制の改廃を迫るなど、より直接的に各国 課税権に制限を課すものであり、国レベルと国際レベルとで課税権の新たな重層的ガバナ ンスが構築されてきているのである。
 EUにおいて法人税の協調は1960年代から検討されてきたが、直接税に関する欧州理事会 での指令案の採択にあたっては全会一致が必要であることから、なかなか進展してこなか った。しかし現在、単一市場への障害を取り払うというEU目標に向けて、CCCTBと呼ばれる 共通連結法人税課税ベース指令案が欧州理事会で審議されている。EU域内で共通の課税ベ ースを利用し、これにより算定された所得を、資産と労働と売上の3つの要素からなる配 賦方式により各国へ配賦し、これに各国が設定した法人税率を課すというものである。な お、全会一致は見込めないことから、9か国以上の賛成で可能な強化された協力による実施 を目指している。もしCCCTBが実施されれば、各国課税権を大きく制限するものとなる。 EUは各国に税率決定権を認めることで各国課税権へ配慮している。ここでも国レベルと国 際レベルとで課税権の重層的なガバナンスの構築が図られつつあるのである。
 参加者は、教員11名、社会人1名、院生2名、合計14名
 

(松田有加)

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