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日本語と英語の広告表現に見られる命令文と非命令文の意味解釈

有光奈美(東洋大学経営学部教授)

     例えば,コンビニで何かを買う場合,店員から「コーヒーでもいかがですか」と言われ,「結構です」と答える.同じ状況で店員から「この商品は150円ですがよろいいでしょうか」と問われ,「結構です」と答える.応答の答えは同じ表現「結構です」であるにも関わらず,前者の状況では否定の意味を持ち,後者の場合は肯定の意味を表す.このように,人間の話すことばには,実際の表現とそれが表す意味には何らかの違いがあり,その「意味」自体に関して考察する必要がある.

     今回は,東洋大学から有光奈美先生をお招きし,「日本語と英語の広告表現に見られる命令文と非命令文の意味解釈」という題目で,言語が持つ意味のヴァリエーションに関して講演をしていただいた.講演を通して,人間というのは,はっきりと明示的にメッセージを伝達することが必ずしもベストの選択肢ではないことが明らかになったとともに,とりわけ広告表現においては,大きく逸脱した伝達をすることで,かえって広告の効果を上げていることも判明した.

     有光先生は,東洋大では経営学部に所属ということもあり,言語とマーケティングとの接点を考えて,特に広告表現のヴァリエーションや日本語と英語の対照について研究されている.例えば,英語では,"feel"や"get"のような動詞が命令形で広告に使われやすい一方,日本語では動詞の命令形が広告に使われる例は少ない.また,化粧品などの広告では,その効果を明示的に広告に記すのではなく,イメージであったり,まったく異なるものを思わせるものを示したり,そもそも何も言語的なメッセージがない場合があったりする.

     このような広告表現や伝達の際の意味の欠如であったり省略は,本来であればコミュニケーションとしては理想的ではない.また,「Xを買え」という命令文が一番直接的な宣伝文であるが,日本語では「Xをどうぞ」「Yを持つ人はかっこいい」のように,非命令文が好まれる.となると,より良いコミュニケーションとは何かということになるだろうし,一番はじめに出した「結構です」も肯定・否定の意味両方存在するにも関わらず,日常生活では頻繁に使用される.

     講演では,このような言語の振る舞いをどう観察し分析するかについて話されたが,言語とマーケティングと分野の異なる専門において,このようなアプローチもありうることは非常に参考になった.これから滋賀大の学生にも取り組んでほしいテーマである.

    (文責:社会システム学科准教授 野瀬昌彦)

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