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フィールド言語学ことはじめ

笹原 健(麗澤大学非常勤講師)

     人間が話すことば・言語というのは,現在でも世界で5000語も存在すると言われており,英語や中国語,日本語などの言語ばかりではなく,少人数のみ話す言語や,絶滅の危機に瀕した言語も存在する.言語を研究する研究者のことを,「言語学者(英語ではLinguist)」と呼ぶのだが,言語の研究と言っても,音声,統語,意味や,脳科学との連携,社会学との連携など,多岐に渡る.

     今回は,その中でもフィールド言語学または文法記述と呼ばれる,比較的少数の話者の言語のコミュニティに入り,そこで現地調査し,当該言語の文法やその他の関連した振る舞いを記述していく方法の初歩について笹原先生に講演をしていただいた.

     笹原先生のご専門とフィールドは,ドイツの南東部に位置するドレスデンという町の近くに居住するソルブ人(人口約6万ほど)の話すソルブ語(英語では,Sorbian)である.ソルブ語は,ドイツ語とは語彙,文法がかなり異なる.というのは,ドイツ語は系統的にはゲルマン語派(英語やオランダ語,スウェーデン語などが属する)に属する言語であるのに対し,ソルブ語はスラブ語派(ロシア語やポーランド語,チェコ語などが属する)の言語であるからである.しかしながら,ドイツ語との言語接触により,ドイツ語の文法特徴や語彙がソルブ語の中に入り込んでいる.

     講演では,ソルブのフィールドの紹介とソルブ語の基礎,さらに,フィールドに入る心構えや調査の内容,面白さなどをユーモアを交えて紹介された.流ちょうなソルブ語話者が高齢化していく今,何をなすべきかについても考察を加えられた.

     ソルブ語や他の少数言語の文法を明らかにしたところで,景気が良くなったり,人々の生活が向上したりという,目に見えて役に立つことはないかもしれない.そういう点で,言語学は役に立つ学問とは言えないだろう.しかし,ソルブ語の人称変化に現れる双数の用法など,文法中に現れる(説明しづらい)論理や形態的特徴を明らかにすることで,文法の多様性や法則性を見つけることは,言語の多様性や文化の多様性を探る面で有益であり,言語学者が続けなければならないと改めて感じた.

    野瀬昌彦(社会システム学科 准教授)

    講演会の様子
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