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タン・ピンピン監督のドキュメンタリー映画"To Singapore, with Love(シンガポールへ、愛をこめて)"上映と解説

盛田茂(東洋大学研究員)

 2018年10月25日士魂商才館3階セミナー室1において、タン・ピンピン監督の『To Singapore, with Love』の上映ならびに盛田茂氏(東洋大学)による解説が行われた。まず映画を観たのち、盛田氏より具体的な解説が行われた。シンガポールの歴史的な出来事や国家としての対外的な戦略など、この国が独立以降貫いてきた政策方針はいわば生き残りのイデオロギーであるとしたうえで、その枠組みのもとで社会の特徴について概観した。実利主義的経済優先の政策に端的に表れるように、権威主義体制は今日に至るまで変更はないものの、現実には数年前より産業転換を図る際に、文化政策も重点項目に入れ、推進するようになった。そのため、歴史表象や映画制作はかつてのような厳しい審査だけでなく、検閲によるレイティング・システムの導入により、作り手と国との間に交渉の余地が残るようになった。

 今回上映された作品は1960年代から1980年代にかけて、国内治安法から逃れ、現在もタイ、マレーシア、イギリスに居住する政治亡命者の日常と母国への思いについて、監督によるインタビューを通して描いた作品で、ドキュメンタリーとして海外で数々の賞を受賞している。しかし、国内ではいわば封印された歴史を主題化した映画として、一般公開が禁止されている。1960年代リー・クアンユーとともに与党人民行動党で議員として活動しながら、意見を異にしたことを理由に社会的制裁を受けた国外へ逃れた人や、学生運動家を支援した人権派弁護士の妻として国外追放となった人など、この国の成り立ちを支えた人たちの現在に注目することで、今日的状況を見直す問いを投げかけている。近年は1960年代から80年代に治安当局によって行われたいくつもの裁判なき拘留に関して、学術団体や市民団体が再検証する動きが出てきている。現在UNHCRによる世界的な難民や避難民は7000万人を超えるという。故郷を追われた人びとの物語として、今回の映画を通してこれを一国の出来事としてではなく、広い視点から議論するきっかけとなることを盛田氏は望んで締めくくった。

(経済学部教授 福浦厚子)

講演会の様子
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