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怪談と文学-小泉八雲にみる説話伝承と再話怪談・地域資源としての文学-小泉八雲と地域創造をめぐって

小泉凡(小泉八雲曾孫、島根県立大学短期学部名誉教授、小泉八雲記念館長)

 2018年10月16日、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)曾孫・島根県立大学名誉教授・小泉八雲記念館館長の小泉凡先生により2つの講演「怪談と文学-小泉八雲にみる説話伝承と再話怪談」(14:30~16:00)と「地域資源としての文学-小泉八雲と地域創造をめぐって」(19:20~20:30)が行われた。ハーンは、母の祖国ギリシャで生誕、その後、父の故郷アイルランド、英国、フランス、アメリカ、マルティニークを経て、1890年日本に至り、1904年東京で54年の生涯を終えた。作家・文学者・教師・ジャーナリスト・民俗学者と様々な顔を持つハーンは、自らの出自に通じるギリシャとケルト、また黒人・クレオール文化を含む様々な文化に深く関わることで、多神教世界、超自然文学への関心を強く持つようになり、また、常に五感を開き、他を排除せずに違いを受け入れるオープン・マインドを持つ人となった。これは、国レベルで排他的に我を通す最近の世界が耳を傾けるべき態度ではないだろうか。小泉先生は、直系家族にのみ伝わる貴重な知的・物的遺産を元に、民俗学研究者の視点で講義を展開し、昼夜のべ260人を超える学生、教職員、学外の方々が先生にハーンの姿を重ね、その「語り」に惹きつけられた。

 第1講において、ハーンは、幼くして別れた母、アイルランド人の乳母、アメリカでの黒人の妻、また、日本で得た妻セツと「語り部」に恵まれたこと、そして、この語りによって豊かな「想像力」と「超自然・異界」への興味が育まれたことが示された。まずハーンの「再話」文学の特色が、内容や文体などの観点から詳説された。その上で、その「再話」は、単なるretold storyではなく、そこにハーン自身の体験が色濃く反映されているがゆえに、独特の力を発していることが、松江・大雄寺の子育て幽霊譚や、「むじな」、「雪女」などの作品に基づいて説明された。小泉先生の講演により聴衆は、語り継がれる伝説、怪談、想像力、ゴーストの力と真理について深く考えさせられ、異界と共生し、自然や闇に畏怖の念を持つことが、持続可能な共生社会実現に結びつくとの先生の意見に、強く納得させられた。  

 第2講においては、ハーンの「不思議文学」が社会資源になっていることが紹介された。例えば、輪廻転生をテーマとする「勝五郎の再生」はアメリカの精神医学者を発端に医療資源化され、また、所縁の地である日野市はこの話を元に「物語探求調査団」「郷土資料館特別展」「記念ウォーク」などの企画を実行した。また、小泉先生自身も、ハーンが愛した松江を本拠地に、ハーンの作品を資源として、様々に地域づくり、人づくりを行なっている。五感を研ぎ澄ます「子ども塾 スーパーへルンさん講座」を市内の小学校とタイアップして実施し、子どもたちの想像力や好奇心を掻き立て、自分と他者の存在を認識させることに成功。また、怪談を資源とする文化観光「松江ゴーストツアー」を考案。これは、2008年国土交通省ニューツーリズム創出・流通促進事業に採択され、以来2017年末現在で、316回開催され、5172人の参加を見ている。参加者は初期の県内中心から県外中心へと変化し、松江へ人を呼び込む原動力となっている。「豊かな遊び心、自然への畏怖、耳で楽しむ、歴史や文学の知識を持ち帰る」とのポリシーに強く賛同した筆者も「彦根ゴーストツアー」を2011年以来、小泉先生の助けを得て開催している。先生は、これ以外にも「松江怪談談義」「怪し会 八雲」を木原浩勝氏、茶風林氏などと開催、島根県立短大に「ゴーストみやげ研究所」を設立、学生と地域の業者が協力し「芳一の耳まんぢう」「ろくろ首だんご」といった新作スイーツや、絵本『耳なし芳一リターンズ』などを生み出している。また、2008年より先生の監修・講演、松江出身の俳優佐野史郎氏の朗読、山本恭司氏の音楽による「小泉八雲朗読のしらべ」という新しい文学の楽しみ方を示すパフォーマンスが創出され、すでに11種類のプログラムが生み出され、国内外で公演され、松江の無形の文化資源となっている。アイルランド公演に同行し、感激した筆者は2017年18年彦根清凉寺における「朗読のしらべ」開催に尽力した。さらに、2017年、日愛外交樹立60周年を期して、大蔵流狂言茂山千五郎家によるハーン作品に基づく新作狂言の創作と公演を、小泉凡先生、祥子氏(記念館プロデューサー)夫妻、筆者で企画・実施した。アイルランド、彦根、松江での5公演の成功は、ハーン作品が、日本の古典芸能の形で現代に訴えかける新しい形を取りうることの証左となった。さらに、ハーンのオープン・マインドをテーマにした造形芸術展が国内外で行われ、また、ハーンが幼少期訪れたアイルランド、トラモアには、ハーンの人生を9つの庭で表現した2015年「小泉八雲庭園」が開かれ、世界中から観光客を誘致している。  

 このような「文化資源」の着想は未評価の地域文化を発掘して磨き、新しい意味づけでプロデュースするものであり、文化創造、地域活性化、観光、国際交流に活かされている。GDPからGross National Enjoymentの時代へ、to haveからto beの発想へ、「ものを作る」から「どれだけ人生を楽しむか、いきるか」へと価値観が変化した今、文学を資源として活用することの意義を本講演で、学ぶことが出来た。地域に多様に関わる仲間である「関係人口」を育む活動が、1地域にとどまらず世界に広がっていることを目の当たりにし、聴衆は生きた学びを体感できる貴重な時を共有できた。

(経済学部教授 真鍋晶子)

講演会の様子
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