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地域活性化プロジェクト2017秋 大学都市彦根の条件

本プロジェクト科目では、大学と都市との関係形成の様々な可能性を、滋賀大学彦根校の現在を踏まえて検討しました。

大学都市彦根を、現状においては未達成なものとしてとらえ、将来の実現の条件を検討しようとする場合、通常の実証的手法(例えば、既存制度について多量多様なデータを収集しそれらを解析することで何らかの未発見の傾向性等を見出そうとする接近方法)だけでは不十分です。すなわち、彦根の現状を実証的に分析し、世界の大学都市と比べて不足している施設・導入すべき制度等を明らかにし、それらを通じてどのような目標価値を実現したいのかを個々について再考しつつ、新たな制度等が機能する条件を吟味することが必要です。そのうえで、新たな制度等の全体をどのような順序・手順で実現に導くのか、少なくとも個々の段階での実行可能な着手箇所を確認することが求められます。これらは、価値判断を基礎にした、機能的制度設計の手法と言えましょう。

授業では、まず、英国の大学都市(オックスブリッジ)の建築と景観に関する文献を参照しつつ、大学都市の施設的な条件を考えるところから検討を始めました。学寮、図書館、植物園、映画館、喫茶店、散歩道、古書店、市場、食堂、(人力機械)博物館、等が議論の対象になりました。次に、オックスフォード大学生の手記等を参照しつつ、教育や学生文化等、大学都市のソフト面の条件を考えました。特に、注目したのは学館(教育研究機能を備えた学寮)の役割です。第1に、学部や学科の専門性を縦の軸とすると、学館はそれらを横断する横の軸であるとみなせます。異なる専門・大学の学生を学際的に束ねて同じ建物に居住させ日常的な交流の機会を創ることで、学館を通じた学生文化の統合的生成が期待できます。例えば、学館ごとのチームによるスポーツ等の交流戦は、大学や専門学部とは異なる忠誠の対象を創り出すでしょう。第2に、学館を私立の組織として経営することで、大学自身は国公立であるとしても、学館には私学としての経営の自由度を確保でき、また、就職先を見出しにくい研究領域の教員を学館長として採用することで、主に教養教育のための教員採用の予算を独自に確保できます。第3に、学館の建築を工夫し、鑑賞に堪えるだけの質を与えることで、学館巡りが新たな観光資源になるように街路を設計することができ、観光と矛盾のない、街区と融合する大学を形成する方向性が見えてきます。

受講生からは、学生の集う場所を確保し学生街を形成するための方策や、学生が街作りに参画する方法、学寮対抗戦の効能や大学間移動の手段としてのレンタサイクルの活用、住民に開かれた大学校地のあり方等、様々な具体的な案が報告されました。

なお、旧制高校の寄宿寮や、新たな大学を創る試みとしての鎌倉アカデミアの歴史については、主題の一部として授業の中で取り上げることを事前に予告していましたが、残念ながら、今回は簡単に言及した程度に止まり、詳細に検討するための充分な時間を確保できませんでした。これら以外にも多くの課題が残されていますが、この試みが大学都市彦根を構想し実現する契機の一つになることを期待しています。