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汚染交易条件の世界における収束

ファイナンス学科 教授 吉田 裕司

 本研究では、世界各国の汚染交易条件(pollution terms of trade)を計測して、世界諸国間で汚染交易条件の収束が生じているかの実証分析を行った。
 貿易財を生産するにあたり汚染排出が伴うが、輸出と輸入に含有される汚染量の比率は、汚染交易条件(pollution terms of trade)と呼ばれている。国際的な産業間の中間財の取引までを考慮して、汚染交易条件を世界パネルデータベースとして構築したことが、本研究の貢献の一つである。さらに、このデータベースを用いて、先進諸国、BRICS諸国、発展途上国を含む40ヵ国間で、汚染交易条件が収束するか否かを検証した。標本に用いた40ヵ国間では、1995年から2009年の間において、汚染交易条件が収束していることが示された。
 残念なことながら、最初の投稿先の「Economic Modelling」からは棄却された(2017年8月)。しかし、本研究周辺の最先端の知見を得るために、豪州Deakin大学にて主催された国際学会に参加することで改訂に取り組んだ。また、「Economic Modelling」の二人のレフリーコメントを活かして、大幅に改訂したものを「Journal of International Trade and Economic Development」に投稿した(2018年3月)。また、同改訂原稿をリスク研究センター・ディスカッションペーパーとして刊行した(2018年3月)。
 実証分析に用いるデータベースに関しては、実質GDP、一人当たり実質GDP、貿易収支、貿易開放度についてはPenn World Table 8.0を用い、40ヵ国(プラス残りの世界全体)×35産業の投入量、産出量並びに二酸化炭素排出量についてはWorld Input-Output Database (WIOD)を用いた。また、本研究の助成金で契約した、EIKON DataStream (Thomson Reuters)のデータベースを用いて、条件付き収束に必要な各国のコントロール変数を入手した。
 Trefler and Zhu (2010)によって提唱された「中間投入を考慮した貿易に内在される生産要素の計測」を発展させて、中間投入を考慮した貿易に内在される汚染排出量の計測」を提唱したGrether and Mathys (2013)に従い、40ヵ国(プラス残りの世界全体)の汚染交易条件(pollution terms of trade)を1995年~2009年の時系列で、すなわち世界パネルデータを構築した。このデータベースを構築するまでの計算過程には1,435×1,435の行列の逆行列を計算しなければならないため、高度の演算プログラムを扱えるMatlabやMathmaticaを利用した。
 実証分析の方法としては、経済成長の分野で用いられているBaumol (1986)、Barro (1991)、Barro and Sala-i-Martin (1992)の「成長率収束(growth convergence)」の枠組みを用いた。すなわち、被説明変数に目的である変数の成長率を用い、説明変数に目的である変数の初期値を用い、その係数が統計的に有意にマイナスの値をとるかを検証するものである。上記で構築する汚染交易条件の成長率を被説明変数として、説明変数の一つとして汚染交易条件の初期値を用いた、パネルデータ分析を行った。
 実証結果としては、標本に用いた40ヵ国間では、1995年から2009年の間において、汚染交易条件が収束していることが示された。特に改訂版ではレフリーコメントに対応して、実証結果の頑健性を確認するために、(i)中間財を考慮しない場合、(ii)回帰モデルの誤差項に不均一分散が存在する場合、においての推定を行った。その結果、本研究の結論には頑健性があることが示された。

参考文献:
Baumol, W.J., 1986. Productivity growth, convergence, and welfare: What the long-run data show, American Economic Review, 76(5), 1072-1085.
Barro, R.J., 1991. Economic growth in a cross section of countries, Quarterly Journal of Economics 106(2), 407?443.
Barro, R.J., Sala-i-Martin, X., 1992. Convergence. Journal Political Economics 100(2), 223-251.
Grether, J.M., Mathys, N.A., 2013. The pollution terms of trade and its five components. Journal of Development Economics 100(1), 19-31.
Trefler, D., Zhu, S.C., 2010. The structure of factor content predictions. Journal of International Economics 82, 195-207.


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