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ベトナムの雇用制度・人材育成とジェンダーに関するパイロット調査

企業経営学科 教授 弘中 史子
経 済 学科 教授 山田 和代

 本研究では,ベトナムの雇用制度と人材育成について,ジェンダーの視点を取り入れて現状を把握するために,パイロット調査を実施した。
 ベトナムは1986年のドイモイ(「刷新」)以降の国際経済統合を通じて,チャイナ・プラス・ワンとして経済成長を遂げてきた。海外資本によるベトナムへの進出が相次ぎ,製造業を中心に労働需要が高まっている。当然ながら日本企業の進出も盛んであるが,喫緊の課題の一つとなっているのが高技能の人材育成である。企業だけでなく,国にとってもこうした人材育成は急務である。現在は人件費が比較的低水準にとどまり海外企業の誘致において優位であるものの,人材のレベルが向上しなければ,近い将来インドやミャンマーなどの近隣諸国との競争に敗れる可能性がある。
 また,ベトナムの労働市場では,日本企業をはじめとして女性労働者の需要が大きいという特徴がある。この点はジェンダー研究からみて大変興味深く,女性労働者の採用形態や労働条件,技能養成をどのように進めながら企業利益を確保しているのかという研究課題となりうる。
 本研究ではこうした問題意識のもとに,既存研究の整理と検討を重ねつつ,ベトナムに進出する日本の中小企業4社に対してパイロット調査を実施した。その結果,下記が明らかになった。

  1. ワーカー採用では,日本社会で一般的な新卒一括採用ではなく,製品生産に要する「器用さ」「視力の良さ」「辛抱強さ」などを重視する結果,生産現場では女性が多く採用されていた。また離職の抑制や定着促進には労働環境や昇格制度のあり方で工夫が必要であることが示唆された。
  2. 賃金制度については,賃金は最低賃金をベースにしたいわゆる基本給と,技能評価により決定される技能給(技能手当),さらに個人の働きぶりが評価される評価給(ボーナスに反映の場合もあり)が主なもので,その他に諸手当やボーナスで構成された。
  3. 出産・育児に関連する休暇取得について,事例企業では当然の権利として取得できる職場環境があった。
  4. 事例企業各社は多能工化と生産性の向上を意識し,それにそって技能修得の取り組みを進め,ワーカーに技能向上の重要性を理解させたり,意識向上を促したりしていた。
  5. 技能修得に向けた取り組みは,OJTだけではなく,講義や訓練の時間を別途設けるOffJT形式も取り入れられていた。
  6. 技能を細かに明文化し,評価と結びつける仕組みづくりへの挑戦が行われていた。ベトナムでは,1人あたりの労働者が担当する業務が,日本よりも細分化されている傾向にありかつ技能は状況と時代によって変化するため,技能を仔細に明確化する取り組みは,中小企業にとっては大きな負担になる可能性がある。

 これらの訪問調査の後に,職業訓練学校への調査にも着手した。それは,技能修得を含めた人材育成は企業が取り組むだけでは限界があるという可能性も考慮しなければならないためである。また,ベトナム人の若年者層がどのような職業観を持ち,雇用制度をどのように認知しているかについて理解するためでもある。具体的には,学校の設立目的や生徒の入学動機,選抜基準,実習を含めた教育プログラム,企業との連携について,ジェンダーの視点を取り入れつつ観察した。今後,公的な職業教育と企業での人材教育の役割分担のあり方等について,さらに検討する必要があることが明らかになった。
 以上の研究成果の一部は,山田和代・弘中史子(2018)「日系中小企業のベトナムでの事業展開」『彦根論叢』415号,pp.160-174として公表することができた。


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