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金融政策効果の不均一性に関する空間分析

経済学科 教授 得田 雅章

 金融政策効果の不均一性を検証するために、地域金融機関の経営戦略を「多様性」の観点から定量分析する。多様性として、貸出産業別多様性、貸出先の地理的多様性、業務多様性を念頭に置く。
 まず、標準的ポートフォリオ理論や各種多様性に関する先行研究をサーベイする。次に、資料「全国銀行財務諸表分析」を元に、業務多様化率、各種パフォーマンス指標(収益、経営安定性、長期安定性)を算出する。別途、マクロデータより個別銀行の貸出競争度や本店所在地の総生産といった、モデル推計に供する各種データをパネルデータとして整備し、推計モデルをセットアップする。最後に、モデルを推計し、銀行業態毎のパフォーマンス関数の差異を比較すると共に、先行研究の結果と整合性が取れているか確認する。
 推計はパネルデータとして最もプリミティブなPooled OLS法の活用に留まっているため、今後各種検定を経て固定効果モデルや変量効果モデルでの推計をせねばならない。また、地理的多様性ではどうしても個別銀行(本支店含む)の膨大な地理情報を効率的に処理せねばならない。そのために地理情報システム(GIS)を活用し、情報の可視化、情報の関係性把握、情報の統合・分析を進めていく(一部は得田・森(2018)で実施)。
 研究成果は得田・森(2018)で公開した。以下、その概要を示す。
 銀行経営において、収益性や安定性といったパフォーマンスを向上させるために、大きく「貸出産業別多様化」「貸出先の地理的多様化」「業務多様化」といった3つの多様化戦略が挙げられる。それぞれについて、理論的には正負相反する反応が考えられ、実体経済への影響を判断するのは極めて実証的な問題である。
 小論の目的は、これら多様化戦略に関する先行研究を整理したうえで、特に「業務多様化」が及ぼす銀行パフォーマンスの変化を実証的に検証することである。そのために、まず独自に「業務多様化率」や「貸出競争度」といった非観測変数を算出した。それらを個別銀行の財務諸表やマクロ経済指標とあわせてパネルデータとして整備し、業態別銀行パフォーマンス関数を推計した。実証分析により得られた結果は以下の通りとなった。

1)業務多様化が収益性(ROA)に及ぼす効果は、都市銀行や地方銀行といった比較的大規模な銀行が負である一方、第二地方銀行のような比較的小規模な銀行では正となり相反する作用が確認された。
2)業務多様化が経営安定性(リスクを評価したROA)に及ぼす効果は、銀行全体として一定方向の影響を与えるわけではないことがわかった。ただし地方銀行においては、多様化が安定経営に資することが示された。
3)業務多様化が長期経営安定性(Zスコア)に及ぼす効果も、地方銀行において有意に正、すなわち、多様化がより長期の安定経営に資することが示された。
4)諸パフォーマンス関数の推計から、地方銀行に言及できる結果が多く得られたものの、あてはまりは総じて低かった。
これら結果から、分析対象金融機関や分析対象期間に若干の差異はあるものの、先行研究に沿いその頑健性を高めたものや、そうでないものとの区別ができた。

得田雅章・森映雄(2018)「銀行の業務多様化に関する一考察」滋賀大学経済経営研究所 WORKING PAPER No.277, pp.1-28. (ISSN 2433-7889)
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