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佐川ちかを中心とした女性詩に関する研究、及び共同研究としての英訳詩集編纂

社会システム学科 准教授 菊地 利奈



 2015年7月にオーストラリア・メルボルンにあるラ・トローブ大学で開催された国際学会JSAA (Japanese Studies Association of Australia)にて、 シドニー大学教授Yasuko Claremont と本助成を受けた共同研究者でもあるオーストラリア国立大学教授Carol Hayesと菊地の3名による、女性詩研究パネル「New Poetic Voices: Women's Poetic Experimentation 」をたちあげた。 菊地は、パネリストのひとりとして戦前の女性詩人の活躍を担当し、1930年代に活躍したモダニズム詩人・左川ちかについての研究発表、「Women's Modernist Poetry in 1930s Japan: Sagawa Chika and her Contemporaries」をおこなった。

 2015年9月29日から10月2日にかけて、オーストラリア・シドニー大学にて、アジア・太平洋戦争終戦70周年を記念して特別に開催された国際学会 「Wounds, Scars, and Healing: Civil Society and Postwar Pacific Basin Reconciliation」では、共同研究者Carol Hayes氏、オーストラリア国立大学非常勤講師のYuki Itani-Adams氏、大阪大学教授の北原恵氏と菊地の4名にて、 戦中の日本人女性芸術家の活動についてジャンルごとに考察するパネル「Women's Words, Women's Images: Japanese Women's Experiences and Perspectives on WW II and its Aftermath」をたちあげた。 Hayes氏とItani-Adams氏はテルコ・ブレアの散文、北原氏は絵画に着目し、従軍画家としても活躍した長谷川春子について、菊地は深尾須磨子などの詩作品に着目した「Women's Voices: Poems on Women by Women during Wartime and Postwar Japan」を発表した。

 海外で英語で発表するだけでなく、滋賀大学経済学部においても研究発表をおこなった。2015年10月29日には、 滋賀大学経済学部ワークショップRethinking Excessively for Documentationにおいて、「女性はプロパガンダ詩を書かなかったか―太平洋戦争期に女性が書いた<戦争詩(愛国詩・国民詩)>をよむ」を発表。女性詩人がアジア・太平洋戦争中に書いた「多種多様な声」を紹介。 発表報告については、ワークショップ代表の本学部阿部安成教授によりまとめられ、HPにて公開されている。 ( https://mokuroku.biwako.shiga-u.ac.jp/eml/kouenkai2015/WS20151029.htm

 同様に、日本国内での学会でもパネルを結成。 2015年11月22日に早稲田大学で開催された日本近代文学学会2015年度国際研究集会では、東京大学大学院教授のエリス俊子氏、共同研究者のCarol Hayes 氏、詩人・新井高子氏、歌人・川野里子氏、菊地の5名にて、パネル「思想・社会・政治からよむ日本近現代女性詩歌」をたちあげ、「戦争と女性―女性が書いた<戦争詩>」を発表した。

 また、研究活動をアカデミアだけにしぼるのではなく、詩・文学の楽しみを一般の人々ともわかちあえる機会を提供するため、 日英翻訳詩歌朗読会を企画。共同研究者Carol Hayes氏と歌人・田中教子氏の協力を得て、2015年4月19日、奈良県明日香の犬養万葉記念館にて、 「日本詩歌に見る近現代女性像―翻訳と朗読の会―」を開催。日本語と英語で、解説をつけたうえで詩と短歌を朗読し、雅楽あり、舞いありの、楽しい会となり好評を得た。 犬養万葉記念館のお知らせ欄に事後報告、及び、宣伝ポスターが公開されている。(http://inukai.nara.jp/1125/  及び http://inukai.nara.jp/date/2015/04/

 本助成で実現可能となったオーストラリア国立大学における共同研究時間を使い、第2回日英翻訳詩歌朗読会、及び第3回日英翻訳朗読会の計画を練ることができた。その結果、第2回日英翻訳詩歌朗読は2016年7月3日に大津にて開催されることが決まった。 ゲストには、詩人・伊藤比呂美氏、詩人・平田俊子氏、詩人・新井高子氏、歌人・川野里子氏、歌人・田中教子氏が来て、自作朗読をしてくださることに決まった。 また、翻訳詩朗読として、共同研究者のCarol Hayes氏と西ミシガン大学准教授のJeffrey Angles 氏にも来ていただくことになっている。また、第3回日英翻訳朗読は、2017年9月にオーストラリア国立大学にて開催することも決めることができた。

 翻訳作業についても、当初の予定よりペースは遅いが順調にすすんでいる。 西ミシガン大学発行の翻訳詩誌『Transference Vo.3』(69-77頁)には、新井高子氏の詩の英訳 Flared Skirt 及び The Healds がコメンタリーとともに掲載された。 また、関東学院大学発行のEジャーナル英訳詩誌『Poetry Kanto』2015年版には、平田俊子氏の詩集『詩七日』から英訳した3篇が掲載された(http://poetrykanto.com/2015-issue

 本助成で実現可能となったオーストラリア国立大学における共同研究時間を使いまとめた石川逸子氏の戦争詩については、本学のワーキングペーパーNo. 248として発行。翻訳詩3篇については、 現在、『Transference Vol.4』に投稿中である。女性の書いた戦争詩については、英語による研究ノートをCarol Hayes 氏との共著として執筆中でもある。

 また、本助成で実現可能となったオーストラリア国立大学における共同研究期間に、共同研究者のCarol Hayes 氏と西ミシガン大学准教授のJeffrey Angles 氏と議論し、 2016年7月に開催される国際学会「The 2nd East Asian Translation Studies Conference」にてパネル「Translating Poetry: Structure or Content」を結成することができた。 パネリストとして、左川ちかがおこなったジョイスの詩の日本語訳が左川自身の詩に与えた影響を考察する研究発表「Translating James Joyce into Japanese: The Possibilities of Poetry Translation and Its Impact」を応募。パネル全体が受理され、発表が決定した。

 英語圏にて近現代女性詩について研究する人間は決して多くはない。研究者間ネットワークを日本国内と世界でつなぎ、今後も近現代女性詩の研究を発展させていきたい。

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