経済学部

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環境負荷の少ない通勤・通学形態への誘導方法に関する研究

経済学科助教授  中野桂

 近年、企業あるいは大学等の教育施設でもISO14001を取得するなど、環境への取り組みが行われているが、通勤・通学にかかわる交通需要マネジメント(以下、TDM)についての取り組みはまだ少ない。北米においては既に70を超える大学で、学生に無制限に公共交通機関を利用できる定期を配布するなどのプログラムを設けている(Wu et al., 2004)。
 本研究では、環境負荷の少ない通勤・通学形態への誘導をいかに図るかについて研究をおこなった。まず、さまざまな事業所における既存の取り組みを調べ、その効果と抱える問題点について整理を行った。次に、滋賀大学彦根キャンパスを例に、実際の環境負荷がどのようになっているかを調べた。具体的には、教職員すべて通勤手段ならびに距離データから、CO2排出量の推計を行った。その結果、彦根キャンパスへの通勤時のCO2排出量は約735.0kg /日であることがわかった。さらに、通勤データの詳細な分析をもとに、自家用自動車を利用している教職員が自転車に乗り換えたときにどの程度CO2排出が減るかというシミュレーションを行った。その結果、2キロ以下の利用者がすべて自転車に切り替えた場合0.52%の削減、5キロ以下で5.78%の削減になることがわかった。さらに、すべての5キロ以下の自動車利用者に加えて、40歳以下の人の場合に限り10キロ以下の者までが自転車に乗り換えたとすると、6.32%の削減になることがわかった。これは京都議定書の求める日本の削減目標の6%を上回るものである。
 上記シミュレーションによって、距離において実行可能な範囲での通勤手段の変更で、大きなCO2削減を達成できることがわかったが、これを実現させるとなるといくつか考慮しなければならない問題が生じる。まず、インセンティブ(誘引)の問題である。現状において、自宅からの距離が2キロ未満の教職員については、通勤手段のいかんにかかわらず通勤手当は支給されていない。一方、2キロ以上であれば、自動車であるか自転車であるかの別はなく、通勤手当が支給されている。つまり、金銭的誘引を持たせるためには、通勤手段の別を設ける必要がある。
 本研究では、教職員にアンケートを実施し、どのくらいの金銭的誘引を設ければ、自動車から自転車への転換が図れるのかについて行うことを今後予定している。また、単に金銭的誘引だけではなく、雨や雪の日には自動車利用しても優遇した通勤手当が支給されるような支給条件などについても検討する。ただし、「通勤手当」の場合、非課税額が定まっており、その上限を超えて支給する場合には給与の一部となるので注意が必要である。
 さらに、実現可能性の鍵となるのは、こうした「手当て(もしくは奨励金)」に対する社会的な受容である。2005年は、公務員に対する手当に対する一般的な批判が、特に大阪市の事例などから従来にも増して巻き起こった年であった。その流れの中で、徒歩や自転車で通勤しているものに対して通勤手当を支払うことに対する批判も起こった。例えば毎日新聞は2005年5月9日の「徒歩通勤手当 住民の手で廃止を迫ろう」と題した社説を掲載した。これに対して、5月30日には「健康促進、エネルギー節約、大気汚染防止、交通渋滞の緩和」などの利点をあげて、むしろ徒歩・自転車通勤に「奨励金」を支払うべきという投書が掲載された。こうした観点からも、今後の検討を加えていきたい。
結果発表
 結果発表の時期: 平成18年度中 
 結果発表の方法: 雑誌論文として公表予定
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