経済学部

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高度情報化社会における人間とコンピュータの相互作用に関する研究

滋賀大学情報処理センター  助手 中川雅央


 私たちのくらしの中で「情報システム」が関与することは、コンピュータやインターネットだけではなく、人間、社会、経済、その他あらゆる分野におよぶ。社会経済の基本リソースは旧来「ヒト・モノ・カネ」であったが、それに第4のリソースとして「情報」を加えることも一般的となっている。現在の高度情報化社会において、これら4つのリソースはさらにその意義を高めるために、今後はナレッジ(知)による付加価値がポイントになると考えられる。そこで第5のリソースを加えた「ヒト・モノ・カネ・情報・『システム(体系化)』」という概念を提案する。
 近年は情報化が急速に進み、あらゆるサービスにおいて情報システムがインフラとして必要な時代となった。しかしながら、東京証券取引所において入力ミスを発端としたシステム障害により取引が全面的に停止しその影響で日本経済の信用を失いかねない事態となった事案が示すとおり、現在の情報システムはそれを利用する人間との間で概念ギャップが大きくなりすぎているとの指摘がされている。概念ギャップとは情報システムの設計思想とユーザである人間の特性と差を示し、設計段階でシステムの構成要素として「人間」を導入していない、あるいは、導入していても人間の行動特性を十分に考慮されていないなどの理由が考えられる。
 人間は機械ではない。したがってミスを犯すのは避けがたい事実である。このような背景から筆者は人間と機械が共生することができる技術の開発を目指している。ナレッジ(知)の科学とシステム(体系化)の技術を統合し、実現可能なシステム設計法の確立を目的として、人間とコンピュータのインタラクションを数理的に解析し、積極的にヒューマンエラーを包含したシステム設計の方法論および確率モデル化による統計的評価法に関する研究を続けている。人間の持つ高度な学習能力・推論能力に対して情報システムの高機能化をいかにして融合させるのかを、ソフトコンピューティングを応用した情報科学的アプローチから解明することができれば、情報が氾濫する現代社会において人間が情報を取捨選択する能力・効率をさらに向上でき、ひいては社会の発展に寄与できるものと考えている。
 これまでに、人間の判別特性について検証し、これまで計算が難しかった確率現象の和事象における確率を上界下界という信頼区間で表現する新しい評価法を提案している。これによりヒューマンエラーの確率的解析が可能となり客観的評価の新しい指標を示すことができる。
 この研究では、筆者らが実験システム開発し、それを利用して人間の判別特性を計測して解析する。人間の判断は対象物の複数の属性を観察し判断することにより、対象物の多様化に適応し、しかも精度を高めている。こうした点に着目し、従来の研究は検査映像から複数の特徴量を抽出し、各特徴量からなる特徴空間での頻度分布を考え、頻度を閾値とした自動判別アルゴリズムを提案している。しかし、この方法を実際に利用するには、人間の判別特性を計測し、複数属性に対する人間の検出確率と閾値の評価法の開発が急務である。すなわち、従来の実験心理学や感能検査で用いられている単一の属性に対する心理測定曲線による検出確率評価のみならず、複数の属性に対する閾値と検出確率との関係を明確にする必要がある。本研究では、複数属性の検査における結合確率を利用して検出確率を向上させる手法を提案する。そして各被験者の複数属性による相関係数の傾向から提案手法の特長を分析し、単一属性の実験との比較から提案手法の有用性を示す。本提案手法は、定性的に単一属性よりも複数属性の情報を利用するほうが検出確率の向上が期待されていることに対しての一つの定量的な評価を与えている。また本提案手法は複数の入力チャネルをもつ同時計測から得られるデータの弁別を必要とする様々な分野での利用が可能であり、例えば、複数のセンサー入力を必要とするヒューマンマシンインタラクション技術への応用が期待できる。単一属性による検出確率に比べて、複数属性による検出確率が向上することを示した。2属性による検出確率は各属性それぞれ平均20~27%程度の向上率を示した。3属性による検出確率の近似計算では平均向上率30%程度を得た。また相関係数の傾向から、各パネルの属性間の関係を4つのパターンに分けて属性間の特長の一端を明らかにした。複数属性を持つ知覚刺激に対する結合確率の利用によって欠損検査の検出確率を向上させることを示した。今後は、より効率的な実験の設計を含めた検査手法の検討と各被験者の個人差を含めた検討を通して検査の頑健性やさらなる検出確率の向上を目指す予定である。
 これら研究成果は、平成十七年七月にアメリカで米国電気学会(IEEE)他が開催した人間とコンピュータの相互作用に関する国際会議11th Human-Computer Interaction International にて発表した。また人間特性の改良計測法を提案した研究成果については神戸で十一月に開催された国際会議 1st World Congress of the International Federation for System Research で発表した。
 なお、本研究の一部は財団法人陵水学術後援会の研究助成により実施できた。滋賀大学からの教員研究費がほとんど無い筆者としては、この研究助成によって成果を公表するに至り大変有意義なものとなったことを記し関係各位に深謝申し上げます。
結果発表
 結果発表の時期: 平成18年11月頃 
 結果発表の方法: 平成18年度日本経営工学会秋季大会での研究発表
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