経済安全保障と国際経済法の調和
本研究の目的は次のようであった。
最終的には、経済安全保障に関連して我が国を含めた諸国はどういった具体的手段が用いているのか、そして現状の国際協定との関係でそれらの手段はどのように理解されるのか。また問題があるとしたら、国際協定にどういった条文上の工夫を施せばよいのかを分析することを目指している。本研究ではその第1歩として次の小さな目標を掲げる。WTO法の下における一般的例外及び安全保障条項をめぐる最近のパネル報告を分析する。続いて投資協定に関連する研究に話を進める。最近の投資協定の下では、WTO法の例外条項と同様のものを挿入する実行があるが、貿易法で用いられてきた例外の規定方法が投資協定の下でも適切かを検討する。
WTOで用いられてきた「安全保障」は例外とするという一括例外方式の妥当性について検討した。この点ではエコ・オロ事件仲裁裁定がカナダ・コロンビア間の自由貿易協定の解釈を行っているので、その分析を主に行った。この紛争は安全保障例外ではなく、環境保護を例外とする規定が問題となった。同協定の2201条は「一般的例外」と題されており、その3項において、この協定が「締約国は人間、動物又は植物の生命及び健康を保護するために必要な環境上の措置」を「採択し又は実施することを妨げるものと解釈してはならない」と定めていた。この条項はその一般的例外という表題のつけ方と、その最初の柱書の文言からして、貿易分野における関税貿易一般協定(GATT)の20条例外の形式をまねたものだと理解できる。
ここで問題となるのは、○○は例外とするという一括的例外条項の意味であった。仲裁廷は2021年に「管轄、責任及び賠償量に関する指示についての決定」を出した。その決定において、2201条によって環境保護を目的とするとされる全ての行為が仲裁の対象からはずれるとする議論は却下された。そして本研究期間中である2024年7月に仲裁廷は賠償裁定を公表した。その裁定では、問題とされる被告コロンビアの諸行為は、政府による正当な規制権限の行使であったとして具体的な賠償命令が下されなかった。つまり環境保護だと言えば一括して例外になるというのではなく、個々の具体的行為の中身を見なければ賠償の対象となるのかどうかは分からない、というのがエコ・オロ事件仲裁廷の述べたこととなる。
この点で、近年のアメリカの安全保障例外の援用事例では、アメリカ政府はアメリカが安全保障目的だといえば、それでWTOの審査対象から除外されると主張しており、WTOの諸パネルの判断と対立している。エコ・オロ事件仲裁判断により、アメリカの主張に対して否定的なものに更にもう一つの国際判例が加わったと言えるであろう。
本研究の成果発表については、次のものを予定している。
- 『テキストブック国際環境法』(東信堂、2025)所収の「海外投資」の章でエコ・オロ事件を分析している。本書は、本研究の申請時では直近で刊行予定であったために、成果対象として予定していなかった。本来の刊行より遅れたために、2024年のエコ・オロ事件賠償裁定までさらに対象に含めることができた。本研究の具体的な成果の一つではあるが、ただ教科書の章であるという性格上、研究助成への言及を行うことはできないので、更に次の成果発表を2025年度中に予定している。
- 彦根論叢かワーキングペーカーにおいて、「エコ・オロ事件」の判例評釈を公表予定である。
- 同じく、2023年の国際司法裁判所「ある種のイラン資産事件」の判例評釈を公表予定である。
結果発表
1.結果発表の時期 2025年中
2.結果発表の方法 彦根論争またはワーキングペーパー