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自動車メーカーの進出国ポートフォリオと経営リスクに関する研究

教授 岡本 哲弥

 本研究は、自動車メーカーの進出国ポートフォリオと経営リスクの関係を分析し、地政学的リスクを含む経営上の不確実性をどのように低減できるかを検討するものである。近年、自動車産業は中国メーカーの台頭や電動化の進展、バッテリー材料の偏在、米国のインフレ抑制法(IRA)、米中対立などの影響を受け、競争環境とリスク構造が大きく変化している。このような状況下で、自動車メーカーにとっては単一市場ではなく、複数国にまたがる事業展開全体を「ポートフォリオ」として捉え、リスク分散を図ることが重要となっている。
 従来、日本企業は欧米市場を中心に海外展開を進めてきたが、現在では新興国・途上国も含めた広範な市場への進出が一般化している。本研究は、こうした多国籍展開をファイナンス理論のポートフォリオ概念で再解釈し、進出国の組み合わせが企業全体のリスクと成長性に与える影響を明らかにすることを目的とする。
 理論的枠組みとしては、まず経営学におけるBCGのPPMが紹介されるが、これは主に資源配分と収益性向上を目的としたものであり、リスク分析には限定的である。一方、ファイナンスのポートフォリオ理論では、複数資産の組み合わせによってリスクを低減できることが示されており、本研究はこの考え方を自動車市場に応用する。特に、リスクは市場全体に起因する「市場リスク」と個別要因による「個別リスク」に分けられ、後者は分散によって低減可能である。また、収益性は期待収益率、リスクは標準偏差(ボラティリティ)で測定される。さらに、CAPMに基づき、市場全体に対する感応度を示すβも重要な指標として用いられる。
 分析では、2014年から2024年までの世界66カ国および主要28自動車メーカーの販売台数データを用い、各市場および各企業の成長率とリスクを算出した。自動車メーカーは各国市場への販売を通じてポートフォリオを構成しているとみなし、そのパフォーマンスをファイナンス的手法で評価する。
 分析結果として、まず企業グループ別では、販売台数の期待成長率とリスクの間に非常に高い正の相関(0.951)が確認され、成長性の高い企業ほどリスクも大きい傾向が明らかとなった。これは一般的なリスク・リターンのトレードオフ関係と整合的である。一方、国別では相関係数は0.423と中程度にとどまり、市場によって成長性とリスクの関係が多様であることが示唆された。つまり、進出国の選択次第でリスク分散の余地が存在することを意味する。
 さらに、各自動車メーカーのβ値を算出することで、グローバル市場全体の変動に対する感応度を測定した。これにより、各企業が市場全体の動きにどの程度連動しているか、すなわち外部環境の影響を受けやすいかを評価することが可能となる。
 結論として、本研究は販売台数という基本的な時系列データを用いることで、自動車メーカーおよび各国市場を成長率とリスクの観点から可視化し、ポートフォリオとして評価できることを示した。また、βの導入により市場全体との関係性も明確化できることが確認された。これらの分析は、企業が進出国の組み合わせを戦略的に設計することで、地政学的リスクを含む経営リスクの低減に寄与する可能性を示唆している。
 今後の課題としては、企業ごとの進出国別データを用いたより精緻な分析や、生産台数を含めたポートフォリオ分析、さらには販売と生産のギャップ分析などが挙げられており、実務への応用に向けた深化が期待される。

結果発表

  1.結果発表の時期 2025年9月5日
  2.結果発表の方法 日本経営学会第99回大会 於 西南学院大学


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